城崎温泉の日々

受け継がれ進化する
伝統工芸
城崎麦わら細工

特別展 前野治郎展
~治郎がめざしたもの~
城崎文芸館で開催中

前野治郎展~治郎がめざしたもの~

城崎温泉の伝統工芸、城崎麦わら細工の特別展「前野治郎展~治郎がめざしたもの~」が城崎文芸館で開催中です。

前野治郎さんは令和4年3月に96歳で亡くなられた麦わら細工の職人さんで、約300年に及ぶ麦わら細工の歴史をまとめた「麦わら細工年表」を編纂するなど、伝統工芸の振興に大きな功績を残された方です。

城崎のこども達にとっては、工房の前でひなたぼっこをしている優しいおじいちゃんとして有名でした。

城崎温泉の伝統工芸 麦わら細工
麦わら細工 小筋張り

麦わら細工は大麦のわらを染色し桐箱や色紙に細工を施すもので、米糊で張り付ける「張り細工」が有名です。

「張り細工」には花や鳥などの絵を描くように模様を張る「模様張り」と、染色された複数のわらを糊でつなぎ合わせ縞柄の筋にして張る「小筋張り」があります。

同じ色のわらでも張る方向によって輝きや見え方が変わる麦わらならではの特性と、ひとつひとつ丁寧に手作業で重ねられていく工程によって、優美で繊細な作品が作られていきます。

温泉寺薬師堂の横にある因州半七師の記念碑

麦わら細工の歴史は古く今から300年ほど前にさかのぼります。

江戸時代、享保年間(1716年~1735年)に因幡の国の住人、半七という人が城崎に湯治に来た際に、宿賃の足しにと麦わらを赤・青・黄に染めて竹笛に巻き付けて湯治客に売り出したのが「城崎麦わら細工」の始まりとされています。

最初は湯治場の気軽なお土産物だった麦わら細工ですが、明治時代に入り富岡鉄斎、田能村直入などの南画家が訪れてアドバイスを受けるなど、民芸品から美術工芸品へと飛躍的に発展を遂げ、明治35年にはセントルイス万博で最高名誉賞牌を受賞したとされています。

また、江戸時代後期に来日したオランダ人医師シーボルトは、医師としてだけでなく日本の様々なものを収集し当時の日本の様子をヨーロッパへ伝えたことで有名で、収集した物は「シーボルトコレクション」と呼ばれていますが、その中に大量の麦わら細工が見つかっており、明治時代には国内だけでなく国際的な評価を得ていたことが分かります。

志賀直哉から当館先々代へのハガキ

当館の志賀直哉ゆかりの客室26号室に直筆のハガキを展示しています。

このハガキは「前略 結構なものを頂きました。娘大喜び」という書き出しで始まっており、実は娘さんを連れてお越しいただいた際に当館から麦わら細工をプレゼントしたことへの御礼のハガキなのです。

志賀直哉は「暗夜行路」でも城崎温泉の場面で「殊に麦藁を開いて貼った細工物が明るい電燈の下に美しく見えた」と書いており、城崎温泉を10回以上訪れ相当な城崎通であったと思われる志賀直哉からも麦わら細工の評価は特に高かったようです。

志賀直哉ゆかりの客室の前に飾ってある麦わら細工「玄武洞」

左が先々代女将の麦わら細工

現在の三木屋でも麦わら細工をご覧いただくことが出来ます。

志賀直哉ゆかりの客室の前には天然記念物の玄武洞を描いた昭和30年代の作品を展示していますし、館内には先々代女将の婚礼の際にいただいた麦わら細工も展示しています。

現主人夫婦の婚礼祝いの麦わら細工

昔から城崎温泉には婚礼の際に麦わら細工を贈る習わしがあり、現主人夫婦の婚礼に際してもお祝いに麦わら細工をいただきました。

麦わら細工は今も城崎温泉に文化として根付いているのです。

婦人画報2022年7月号の表紙

全国の伝統工芸が後継者不足などで悩む中、城崎温泉の麦わら細工は若い方で興味を持ち見習いで入られる方も少しずつ増えてきています。

そして最近では「婦人画報」2022年7月号(特集 いま、欲しい手仕事~受け継がれ進化する、「よきもの」を求めて)の表紙に採用されるなど、麦わら細工にあらためて光が当たっています。

伝統を受け継いで進化する「城崎麦わら細工」、その歴史を今回の特別展で是非感じて下さい。

麦わら細工 ボンボン入れ

■城崎麦わら細工「前野治郎展~治郎がめざしたもの~」 概要

開催場所:城崎文芸館

開催期間:2023年4月20日~2023年9月末まで(予定)

営業時間:9:00~17:00(最終入館16:30)

入館料 :大人500円 中高生300円 小学生以下無料

定休日 :毎週水曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始